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君と創る明日     月桜可南子
       プロローグ
 伊能成利(いのう・なるとし)が目を覚ましたのは、隣で眠る英夏が酷くうなされていたからだ。昨夜から、右脚の痛みを訴えて辛そうだった。午前一時くらいまでは、背中を撫でてあやしていたのだが、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。枕元の時計は午前三時を指している。
「英夏、痛むのかい? 痛み止め、持ってこようか?」
 成利は、英夏の額に浮かぶ汗を自分のパジャマの袖口で拭ってやりながらそっと声を掛ける。同性とは思えない華奢な身体は、寝汗でぐっしょり濡れている。成利の呼びかけに、うっすらと目を開けた英夏は、弱々しく微笑んだ。
「ごめん……起こしちゃったね」
「僕こそ、眠ってしまってごめんよ」
 英夏が苦しんでいるのに、どうすることもできない自分が歯痒くて、成利は唇を噛みしめた。
 阿川英夏(あがわ・えいか)は、小学一年の時、交通事故で右脚を複雑骨折した。成利と同学年だったのに一年留年し、何年も車イス生活を余儀なくされたが、持ち前の勝ち気さと努力で、中学入学までには杖なしで歩けるようになった。
 だが、一時は右脚切断の危機さえあった大怪我だ。障害が残らないわけがない。英夏は季節の変わり目や体調の悪い時、冷え込みの厳しい日など、決まって脚の痛みを訴えた。
「痛み止め、持ってきてくれる?」
「ああ、もう一回飲んで効かなかったら、病院へ行こうね」
 成利は大急ぎでリビングのダッシュボードから薬を取り出し、枕元の水差しで英夏に飲ませた。成利が、蒸しタオルで英夏の汗を拭い、パジャマを着替えさせると、痛み止めが効いてきたのか英夏は気持ちよさそうに微笑んだ。
「成利、ありがとう。大好きだよ」
 そのあどけない笑顔に、成利は泣きたくなった。英夏を愛している。誰にも渡したくない。しかし、英夏は恋をしていた。自分ではない男に……。

          To be continued
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