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オーバードライブ プロローグ   月桜可南子
 大きく広げられた両脚の間には、男の怒張して血管の浮いたモノが突っ込まれていて、律動に合わせてグチュグチュと卑猥な音を立てている。
 男の刻むリズムに翻弄され、僕の唇からは押さえきれない喘ぎが漏れていた。波打ち際に打ち上げられた魚のように、びくびくと跳ねる身体。 押し寄せる快感の波にさらわれそうになりながら、もっと深く抉ってとねだる。
 快感のポイントをうまく突き上げてもらえないもどかしさに、焦れて腰を揺すると、淫乱な身体だと男が嘲るように笑った。
 男の動きが、達するための速いものに変わる。嵐のような激しさで揺さぶられて息ができない。苦しくて、僕は我知らず男のモノを締め付ける。その瞬間、男が呻いて吐精した。
 呼吸も整わないうちに、ずるりと引き抜かれる衝撃に唇を噛みしめた。マグマのような熱を持ったままの身体は宙に浮いたようで辛くて堪らない。
 僕はコンドームを外している男を睨み付けると、バスルームに行って自分の手で抜いた。サイテーだ。
 あの悪魔のような男が、十四歳だった僕に教え込んだ快楽はあまりにも強烈で、僕の身体の奥深くまで染み込んでいた。『あいつ』との爛れたセックスに慣らされた身体は容易に満足しない。
 『あいつ』と過ごした2ヶ月。どうやって男をその気にさせ、天国に導き、自分に溺れさせるかを徹底的に仕込まれた。気がつくと、忠実にベットでそれを実行している自分にうんざりする。
 シャワーを浴びてベッドルームに戻ると、煙草をふかしていた男に抱き寄せられた。「次はいつにしようか?」とふざけたことをぬかす。あんた、僕が満足できなかったって気づいてないのか!? 呆れてものも言えないでいると、男はキスをしようと僕の顎を掴んだ。
 パシンと音がするほどの激しさで、僕は男の手を叩き落とした。そのまま身を捩って男の腕をすり抜けると、床に散らばっている服をさっさと身につける。 男がジャケットを拾って着せかけてくれるのに黙って腕を通した。
「電話番号、教えてくれないか?」
 僕の顔色を窺うように男が訊いてきた。揉めるのが煩わしくて、適当な番号を口にする。男が嬉しそうにそれを手帳に書き込んでいる隙に、僕は部屋を出た。


 ホテルの廊下ではSP(要人警護に当たる警察官)の山本さんと、新顔の前田さんが僕を待っていた。「遅いから送っていくよ」と言われたけど、飲み直すからと断った。 「未成年だろう」と言わないあたり、山本さんは人間ができてると思う。
 でも、なんで店の中までついてくるんだろうなぁ。そういうことをするから、馬鹿な男しか声を掛けてこないんだぞ。幾ら離れた席に座ってたって、頭の良い男はみんな、あんた達を見て警戒して逃げちゃうんだ。
 この店は、アメリカから帰国して二番目に付き合った男が連れてきてくれた店。いわゆる“ハッテン場”てところ。SPがくっついてくるようになるまでは、それなりにいい男が釣れたのに……。
 僕は二杯目のソルティドッグで酔いが回り、カウンターに突っ伏した。気持ちいい、このまま寝ちゃえ。
 頭の上で誰かが何か話してる。そのうち僕の身体はふわりと抱き上げられた。新顔のヘアトニックの香り。でも眠くて目が開けられない。 
 霞んだ意識の薄闇の中、『彼』が僕を見ていた。静かで柔らかな瞳が、困った子だねと苦笑している。抱きしめて優しくキスして欲しくて、懸命に手を伸ばすけど届かない。 実の母親からさえも疎まれ憎まれた僕を、慈しんでくれた胸はもう永遠に失われたのだ。
 『彼』の身代わりなんて誰にもできないと頭じゃわかっていても、心がどうしても納得しない。ぽっかりと胸に空いた大きな空洞は、身体の中心にあの灼熱の太くて固い肉棒を突き立てられた時だけ埋められるような気がする。この餓えと渇きを癒すためなら、たとえ他人から淫乱、尻軽となじられようと、僕は男をくわえ込まずにいられなかった。
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