ずっと君だけを・後編     月桜可南子
          act.10
 誰も岸森の行方を知らなかった。同僚も、ルームメイトも、キャシディさえも。俺は、それこそ死にもの狂いで岸森を捜したが、アメリカは広すぎて、とうとう見つけることはできなかった。
 瞬く間に三年の月日が流れた。その間に岸森の消息でわかったことといえば、彼が日本に移り住んだらしいということだけだ。富士山の絵葉書が届いたと、シャーリーから連絡をもらい消印を調べたが、静岡駅前で投函されたことまでしかわからなかった。だけど俺は諦めなかった。何年かかっても、絶対に見つけ出してやる!
 俺が二十八歳になると、次々と縁談が持ち込まれるようになった。
「優しそうなお嬢さんじゃないの。どこが気に入らないの? 会うだけでも会ってみなさい」
 そう言って、お袋に詰め寄られたのも一度や二度じゃない。
「自分の結婚相手は自分で見つけるって、何度も言ってるだろう!」
 兄貴の二の舞はご免だった。社会的信用を得るため、適当な相手と結婚して苦しむのは。人生のパートナーは、この世で一番、愛する人でなくてはならない。俺にとってそれは、岸森ただ一人だった。
 十年越しの片想いをナメるなよ。執念と言われても、俺は岸森が欲しかった。俺の隣は、岸森のために空けておくんだ。岸森じゃなければ、一生ひとりでいる覚悟だった。
 神様は、そんな俺を哀れに思ったのかもしれない。再会は、突然訪れた。


 俺は納品中に、倒れてきた家具の下敷きになって頭を打ち、意識不明になった。気がついたときは病院で、いろんな機械に繋がれていた。医者が言うには、頭を強く打っていて、肋骨にもヒビが入っており、命に別状はないが絶対安静ということだった。
 目を真っ赤に泣き腫らしたお袋が、叔父夫婦に付き添われて帰った後、俺は一人でまどろんでいた。薬が効いているらしく痛みはない。室内には、俺の脳波と心音を伝える小さな機械音だけが響いていた。
 廊下のざわめきが聞こえなくなり、入院患者達が寝静まった頃、病室のドアが静かに開いた。看護師が見回りに来たのだと思った俺は、目を開けるのも億劫で、浅い眠りに身を任せていた。
「ヒロ……」
 震える声が、怯えたように俺を呼んだ。忘れもしない岸森の声だった。
 細い指先が俺の手を優しく撫でる。俺は懸命に目を開けようとしたが、目蓋は俺の意志に反して鉛のように重くて、ちっとも上がらなかった。夕方、投与された睡眠薬のせいだろう。
「さあ、もう気が済んだでしょう。見つかる前に帰りましょう」
 落ち着いた年配の男の声が言った。俺はその声に聞き覚えがあった。親爺の秘書を永年勤め、親爺亡き後は兄貴の秘書をしていた太田だ。兄貴が亡くなった後は、叔父貴が他社から引き抜いた新しい社長の秘書になった。
「もう少し……お願い…もう少しだけ……」
 嗚咽混じりの懇願。目を開けて「大丈夫だ、心配いらない」と抱き締めてやりたいのに、俺は薬のせいで指一本動かすことができなかった。
「直記さん」
 たしなめるような声に、ゆっくりと俺の手を撫でていた指が離れていった。そして、入ってきた時と同じように静かに扉が開き、二人は足音を忍ばせて出て行った。


 翌朝、激しい頭痛に目を覚ました俺は、昨夜の出来事を必死に思い出し、そして考えた。
 岸森が、俺のことを心配して見舞いに来てくれたということは、俺のことを少なからず気にかけてくれているということだ。岸森をここに連れてきた太田を締め上げれば、岸森の居所はすぐにわかるだろうが、また逃げられてはかなわない。俺は一度ならず二度までも、岸森に逃げられているのだから、今度はもっと慎重に動かなくては。
 俺は興信所を使って、岸森の勤め先から住所、両親の所在など、徹底的に調べさせた。三年間、あれほど苦労したのが嘘みたいに、太田という手掛かりをもとに、芋蔓式に情報が手に入った。
 P.F.社を辞めた岸森は、亡母の祖父母の元にしばらく身を寄せた後、太田の紹介で、東京の空間デザイン会社に就職していた。レストランや飲食店などを設計から装飾まで手がける会社だ。岸森はそこで、インテリア・プランナーの資格を修得して活躍していた。
 現在は、その会社の千葉にある社員寮に住んでいる。かなりの額の給料を貰いながらも、社員寮なんかで暮らしているということは、特定の恋人がいないということだ。岸森は、今でも兄貴を想い続けているのだろうか。
 特に親しい友人はいないが、後輩達からはかなり慕われているらしい。月に何度か後輩達と、新宿や渋谷へ飲みに出かけていた。
 調査報告書に添えられた岸森の写真は、どれも疲れた顔をしていたが、静謐な美しさは少しも損なわれてはいなかった。相変わらずスタイルが良く、どんな人混みの中にいても目立つ。肩まであった褐色の髪は、ありきたりのショートカットに整えられ、地味な服装に身を包んでいたが、俺は百メートル先からだって岸森を見分ける自信があった。


 一ヶ月の入院生活から解放されると、俺は東京支社への転勤を願い出た。長谷川家具は、本社を名古屋に置いているから、東京支社は営業所に毛の生えた程度のものだった。お袋はもちろん、叔父貴も難色を示したが、俺は「東京で一人暮らしを経験して、嫁さんを見つけたい」と言って、まんまと周囲を丸め込むのに成功した。
 もちろんマンションは、岸森の住む独身寮のすぐ近くに借りた。だけど、ノコノコ岸森に会いに行くような真似はしない。そんなことをしたら、また岸森に逃げられてしまうからだ。俺は、岸森の生活を遠くからじっと見守るだけで我慢して、仕事に勤しんだ。
 その甲斐あって、東京支社に転勤して半年で、俺は都心にある老舗ホテルの支配人に気に入られた。ほとんど売り上げに繋がらない、家具の修理やメンテナンスにも、嫌な顔ひとつせず迅速に対応したからだ。
 ホテルの顔である一階ロビーと、スイートルームの改装をしたいと持ちかけられた時、俺はすかさず岸森を推薦した。ニューヨークでインテリア・デコレーターをしていたという岸森の経歴を、支配人はいたくお気に召したようだ。岸森を名指しして、改装を任せることになった。家具や装飾品の搬入担当は、もちろん俺だ。



          act.11
 打合せ当日、アシスタントの後輩と共にクイーンズ・ガーデン・ホテルに現れた岸森は、俺の顔を見て僅かに顔色を変えた。おそらく太田から俺が東京の営業所に転勤したことを聞いて、ある程度は再会を覚悟していたのだろう。取り乱したり逃げ出したりすることはなかった。
「改装のお手伝いをさせて頂くことになりました長谷川家具の来生寛之です。宜しくお願いします」
 俺は、まるで初対面のように他人行儀な挨拶を口にした。岸森は、ぎこちない笑顔を浮かべて「こちらこそ、よろしくお願いします」と返してきた。俺の素っ気ない態度に面食らいながらも、どこか安堵しているのが手に取るようにわかった。
 型どおりの名刺交換の後、支配人から改装の予算やコンセプトなど細かい希望や説明を受けた。岸森は、相手の言葉を一言も聞き漏らすまいと真剣な表情でメモを取り、打合せに余念がなかった。さすがにこれだけ大きな仕事は初めてのようだ。
 東京駅から少し離れているとはいえ、このホテルは老舗だ。その内装は当然、マスコミからも注目される。成功すればインテリア・プランナーとして大きな評価が得られるだろう。
「それでは、今日のところはこのへんで」
 そう言って立ち上がった支配人に合わせて、俺達も立ち上がった。
「今月中には、いくつかの案をお見せできると思います」
「楽しみにしているよ」
「はい、ご期待に添えるよう頑張ります」
 大きな仕事を任された喜びに、岸森は興奮していた。瞳がキラキラと輝いて生き生きしている。俺は初めて出会った頃の、ダイアモンドみたいに輝いていた岸森を思い出した。
 支配人室を出た途端、岸森はサッと身構えたが、俺はビジネスライクに型どおりの挨拶をして別れた。『押してもダメなら引いてみろ』というわけだ。俺はもう、猪突猛進するようなガキじゃない。
 案の定、会社に戻ってすぐ、岸森から電話が掛かってきた。
『君が推薦してくれたんだってね。ありがとう』
 平坦な声音から、岸森が緊張しているのがわかった。
「今の俺には仕事だけが生き甲斐なんだ。でも、岸森が俺と組むのが嫌なら、俺は担当を降りるから」
 やりにくいから外れてくれと言われる前に予防線を張る。俺の殊勝な申し出に、岸森は少なからず驚いたようだ。
『こんな大きなチャンスをくれた君を、外そうなんて考えてないよ。お互い、力を合わせていい仕事をしよう』
 何かが吹っ切れたような岸森に、心底ホッとした。どろどろしたわだかまりが解けて、学生時代の関係に戻った気がする。
「そうだな、頑張ろう!」
 心の中でガッツポーズを決めながら、俺は受話器を置いた。今度こそ手に入れてみせる。もう絶対に、逃がさない!!


 俺は、コネというコネを駆使して、岸森が望むものは何でも手配した。入手困難といわれたアンティークの飾り棚も、ロンドンまで出向き、現地のバイヤーに掛け合って手に入れた。岸森が実際に商品を見たいと言えば、様々なメーカーの工房へ連れて行った。さすがに、岸森がどこへ行くのにも後輩の三浦を連れてくるのには参ったが、「後輩を育てるのも仕事のうちだから」と言われて我慢した。
 岸森が、三浦と関係を持っていることに気づいたのは、奥飛騨の家具工房を見学するため、岐阜に一泊した時だった。
 岸森と三浦はツインに、俺はシングルに宿泊した。うっかり翌朝の出発時間を決め忘れ、内線電話を掛けたが、何回コールしても出ない。仕方なく二人の部屋まで行くと、岸森がクスクスと笑っている声が聞こえてきた。偶然なのか故意なのか、ドアが小さく開いていた。
「いいよ…オサム、気持ちいい……あっ…あぁっ」
 甘い喘ぎ声に凍り付いた。いけないと思いつつ、俺は隙間から室内を覗き込んだ。三浦が、岸森の白い両脚の間に顔を埋めていた。岸森はワイシャツ一枚だったが、三浦はまだきっちり服を着込んでいる。
「やぁ……あっ、あ…ぁんっ……」
 紅潮した岸森の横顔に、俺はゾクリとした。きつく眉を寄せ、押し寄せる波に耐える様は、堪らなく淫らだ。絶頂が近いらしく、腿が小刻みに痙攣している。三浦が、ぴちゃひちゃと舐めしゃぶる音まで聞こえてきそうだ。
「だめ……も…イクっ……」
「いいですよ、飲んであげます」
 岸森が半泣きで訴えると、くぐもった声で三浦が答えた。
「バカっ…はな……! いやっ……ああッ!」
 岸森は懸命に耐えていたが、やがて声にならない悲鳴を上げて達した。まるで猛獣に貪り食われる小動物のような悲しげな声だった。俺は居たたまれず、足早にその場を離れた。

 
 翌朝、レストランへ朝食に現れた岸森の鎖骨には、シャツで隠れるギリギリの処に赤い痣があった。
「キスマーク、見えてるぞ」
 腑が煮えくりかえりそうなのをグッと堪えて、俺は努めて冷静な声で言った。岸森より先に現れて、俺と一緒に朝食を食べていた三浦は、途端にバツの悪そうな顔をした。
「これしか着替えがないんだ」
 悪びれた様子もなく、岸森はゆったり笑った。岸森にしてみれば、三浦とは摘み食い程度の軽い関係らしい。
「子供に悪い遊びを教えるなよ」
 俺はわざとらしく、大きな溜息を吐いて見せた。
「オレは子供じゃありません! 直記のこと、真剣に愛しています」
 三浦がムキになって訴えると、岸森は露骨に嫌な顔をした。ルール違反だと言わんばかりに三浦を睨み付ける。
 そう、岸森が欲しいのは愛なんかじゃない。後腐れのない気楽な関係だ。これでもう、岸森は三浦と寝ないだろう。俺は三浦の失敗を陰でこっそり、せせら笑ってやった。



          act.12
 クイーンズ・ガーデン・ホテルの改装が終わった。
 ロビーは、和洋折衷の洗練されたモダンな空間に演出され、飛騨で細工させたテーブルや衝立が、気の利いたアクセントになっている。きっと外国人の客にも好感を持たれるだろう。
 スイートルームは、柔らかなオフホワイトにモスグリーンでアクセントをつけ、一つ一つ細心の注意を払って選ばれた家具が、絶妙なバランスでエレガントな雰囲気を醸し出していた。まるで上質なリネンにくるまれているような、心地よい空間に仕上がっている。
 支配人は、岸森の才能を絶賛し、ホテルのメインダイニングで改装に関わったスタッフを労ってくれた。
 その夜、俺は場所を変えて、岸森と二人で祝杯をあげた。もともと趣味や感性の似ている俺達だから、映画や音楽など話題は尽きない。俺が、寮の近くに住んでいることがわかると、岸森は「知り合いが近くにいるのは心強い」と素直に喜んでくれた。アルコールの酔いも手伝って、久しぶりに学生時代に戻ったような親密さで話が弾み、岸森を寮に送り届けたのは深夜23時を回ってからだった。
 俺は根気強く我慢強く、二人の距離を縮めていく覚悟をしていた。強引に身体を繋いでも、心の隙間は埋まらないことは嫌というほど思い知らされた。時間はかかるだろうが、それが一番、近道なのだと思う。
 俺達は、月に一、二度のペースで会うようになった。それは、スポーツ観戦だったり居酒屋で飲むことだったり、公園を散歩したりだった。岸森は、あちこちから取材や仕事が舞い込んで忙しく、丸一日いっしょに過ごすことはできなかったが、静かで穏やかな時間の中で、岸森が戸惑いながら躊躇いながら、少しずつ俺に心を開いてくれるのが感じられて嬉しかった。
 

 真夜中に、岸森が俺の部屋を訪ねてきたのは、俺達が再会して半年ほど過ぎた木枯らしの吹く夜だった。
「ヒロ、泊めてくれないか…? 今夜だけでいいから……」
 岸森は、酷く怯えていた。その理由は、首にくっきりと付いた指の痣で、すぐにわかった。首を絞められた痕だ。俺は黙って岸森を室内に招き入れた。
 ソファーに座らせ、震える身体から血の匂いがする服を脱がせる。岸森の身体はナイフによる切り傷だらけで、俺は息を飲んだ。
「シャワー、浴びたい」
 愕然とする俺に、岸森がポツリと言った。
「やめとけ、傷口が開く」
「でも……」
 言い淀んで目を伏せた岸森を見て、ピンときた。
「中で出されたのか?」
「……ああ」
 岸森は、苦しげに呻いた。
「バスルームはこっちだ」
 俺は小さく舌打ちすると、バスルームに案内してやった。岸森がシャワーを使っている間に、手早く自分のベッドのシーツを替え、着替えと傷薬と鎮痛剤を用意する。
 シャワーを浴びた岸森は、気が緩んだのか一人で立っていられない程、ぐったりしてしまい、俺は抱きかかえるようにしてベッドまで連れて行った。もう口を利く気力もないらしく、俺が傷の手当てをしている間も終始無言だった。
「おやすみ」
 布団を肩まで引き上げてやり、俺は静かに寝室を出た。出血の割に傷はどれも縫う必要がなく、俺は心底、ホッとした。ただ、岸森が受けた恐怖を考えると、心のダメージの方が心配だった。
 翌朝、俺はコーヒーメーカーの音と香りで目を覚ました。岸森が俺のダボダボのパジャマを着て、ダイニング・テーブルに凭れていた。
「岸森っ、寝てなきゃダメだろ! 腹が減ったんなら、コンビニで何か買ってきてやるから」
「大丈夫だよ。それより僕の服は?」
 岸森は、熱っぽいボンヤリとした顔で俺を振り返った。体温を確かめようと額に手を伸ばすと、反射的にビクリと身を竦める。
「熱があるんじゃないのか? 仕事は休んだ方がいい」
「大丈夫だってば! レイプされたのは、これが初めてじゃない」
 岸森は苛ついたように俺の手を振り払った。兄貴が死んだ夜、怒りに任せて岸森を抱いてしまったことを思い出し、今度は俺の方がたじろいでしまった。
「服は捨てた。俺のを貸してやるから、それを着ろ」
 俺は、クローゼットからフリーサイズのトレーナーと俺が持っている中で一番小さいスラックスを出してやった。身長は、俺の方が7センチも高いのに足の長さは同じというのは、なんとも情けない。ウエストに至っては、ゆうに15センチは細くて、ベルトがなければスラックスがずり落ちてしまう有様だった。
 さすがに、岸森を満員電車で出勤させるのは躊躇われ、俺は車で会社の前まで送り届けた。
「帰りも迎えに来るから、終わる時間がわかったら電話しろ」
「いいよ、一人で帰れる」
「傷の手当てがあるだろ。ガーゼを替えて薬を付けないと。それとも病院へ行くか?」
 岸森に、身体の傷を医者に診せる勇気などない。渋々といった様子で呟いた。
「わかった。電話するよ」
 その言葉に、俺は満面の笑みを浮かべて岸森を送り出した。


 切り傷は、胸や内腿、ペニスの付け根など全部で13カ所もあったが、どれも隠れるところなのが不幸中の幸いだった。問題は、首を絞められた痕や、手首を縛られた擦過傷だ。今が冬で本当に良かったと思う。
「三浦じゃないな、奴にこんな度胸はない」
「……取引先の奴だよ。二つ年上で…サドっけはないと思ってたんだけどな」
 岸森は俯いたまま、決まり悪そうに呟いた。
「俺を頼ってくれて、嬉しかった」
 俺の口からスルリと本音が零れ出た途端、岸森は弾かれたように顔を上げ、俺の真意を探ろうとするかのように、まじまじと俺を見つめた。
「そうだこれ、タートルネック・セーターだ。まだ早いけど、クリスマス・プレゼントにやるよ」
 会社の昼休みに、デパートへ買いに走ったセーターは、爽やかなブルーグレーで、身体にピッタリフィットするデザインだ。俺の小遣い一ヶ月分が軽く吹っ飛んだが、岸森のためならそれくらいの出費はちっとも惜しくなかった。
「ありがとう。欲しいと思ってたんだ」
 はにかむような微笑みを浮かべた岸森は、本当に可愛らしかった。セックスなんて知りませんと言えば、皆、信じるだろう。
 コンビニ弁当で夕食を済ませ、岸森を寮まで送るためにコートを手に取ると、岸森が不意に言った。
「ねぇ、セックスしようか?」



          act.13
「ねぇ、セックスしようか?」
 まるで、面白い遊びを思いついた子供のような無邪気な誘いに、俺は絶句した。
「ヒロには、たくさん迷惑かけちゃったから、僕を抱いてもいいよ」
「俺は迷惑だなんて思ってない。俺達、友達じゃないか!」
 咄嗟にそう答えると、岸森は淋しそうな顔で笑った。今さら俺に言えた義理じゃないが、自分の身体を無造作に投げ与えるような真似をして欲しくなかった。
「じゃあ、ヒロはクリスマスに何が欲しい? ディナーでもご馳走しようか?」
 おどけた口調で問われて、俺は勇気を振り絞って言ってみた。
「岸森の手料理を食べたいな。昔はよく作ってただろう?」
 『昔』というのはもちろん兄貴と暮らしていた頃のことだ。岸森は多忙な恋人のために、栄養や消化のことを必死に勉強して、かなり手の込んだ料理を作っていた。
 たちまち岸森の顔に、戸惑いと動揺の色が浮かぶ。
「いいんだ、言ってみただけ。ここんとこコンビニ弁当や外食ばっかりで、手料理に飢えてたからさ」
 岸森を困らせるつもりはなかった。岸森の言う「ディナーでもご馳走」というのは、「外で食事を奢る」という意味なのは、俺も充分承知していた。
「そうだね……たまにはそういうのも悪くないね。ヒロは、何が食べたい?」
 静かな声で、ひっそりと岸森が言った。遠い昔を懐かしむように……。


 指折り数えて待ったクリスマス・イブの夜、岸森は約束通り、俺の部屋に来て、手料理を作ってくれた。ビーフシチュー、アボガドとエビのサラダ、カボチャのシーフードグラタン、鯛のカルパッチョ……どれも兄貴の好物だったものばかりだ。
 岸森は、料理にはほとんど手を付けず、俺が張り込んで買った年代物の赤ワインを楽しんでいた。
「ヒロは、彼女とか作らないのか?」
 岸森の手料理に舌鼓を打っていた俺は、危うく牛肉を喉に詰まらせるところだった。
「なんだよ、急に」
「だって、こんなクリスマス・イブに僕の手料理なんか食べてないで、可愛い女の子とデートすればいいのにと思って」
「迂闊に女に手を出して、結婚を迫られるのが嫌なんだ。この年で『付き合う』っていうのは、どうしたって結婚を前提にってことになるからな」
「僕は、結婚したいと思ってるよ。先週、逆プロポーズされたんだ」
 岸森は恥ずかしそうに、しかし真剣な表情で言った。
「はぁあ!? おまえ、女とできるのか? 変な冗談やめろよ」
 信じられない告白に、俺は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。岸森が結婚? 付き合ってる女がいるなんて、話も気配もまったくなかったのに? 第一、女達は惨めになるのを怖れて、岸森の隣を歩くことすらしない。
「彼女にはもう子供が二人いるから、そっちは無理しなくてもいいって言われた。でも、身体の相性は悪くないと思う」
「そんな女と、何処で知り合ったんだよ?」
 衝撃のあまり、バクバクと早鐘のように打つ心臓を宥めながら、俺は努めて冷静を装って訊いた。
「会社の同僚。うちの社長が先月、ライバル会社から引き抜いてきたんだ。聡明で思いやりのある女性だよ」
 照れ臭そうに笑った岸森は、恋する者特有の夢見るような瞳をしていた。俺は身体中の血が逆流するのを感じた。大切に大切に見守っていた油揚げを鳶にかっさらわれた気分だ。
「結婚は一生もんだからな。もっと、お互いの事をよく知ってからの方がいいんじゃないか? 兄貴が離婚できなくて苦しんだのを知ってるだろう?」
 なんとか平静を装って、それだけ言うと、岸森は途端に顔を曇らせた。
「そうだね……浮かれてゴメン。僕にも『家庭』が持てるんだと思ったら舞い上がっちゃって……。ヒロも喜んでくれると思ったし」
 六歳で母親を亡くし、家庭を顧みない父親と、冷淡な継母に育てられた岸森は、人一倍、暖かい家庭に憧れていた。その孤独がわかるだけに俺は、結婚なんてやめろとは言えなかった。


 岸森の恋人は、花村蒔絵という三十二歳のインテリア・コーディネーターだった。七歳の男の子と五歳の女の子の母親で、夫とは三年前に死別していた。決して美人ではないが、おおらかで暖かみのある女性だ。きっと岸森は、彼女に理想の母親像を見ているのだろう。
「ごめんなさいね。打合せが長引いてしまって」
 二人だけで話したいという俺の呼び出しに応じて、彼女は待ち合わせの喫茶店に五分遅れて現れた。
「それで、ご用件は何かしら?」
「あなたが、どうして岸森と結婚したいのか知りたくて」
「私が、彼に相応しい女かどうか見極めたいってことね」
 岸森が言うとおり、彼女は聡明な女だった。俺の心の内を見抜いている。
「正直言うとね、私はあなたほど彼を愛していないわ」
 運ばれてきた紅茶を一口飲むと、彼女は穏やかに話し始めた。
「私は、子供達の父親が欲しいの。息子のキャッチボールの相手をしたり、娘をたっぷり甘やかしてくれる父親が。そのかわり私は、彼が憧れる家庭をあげるわ。掃除の行き届いた部屋、暖かい食事、貞淑な妻、父親を慕う子供達。家族旅行や子供会の行事。
息子は恋の悩みを彼に相談し、娘は彼のエスコートでバージンロードを歩くわ。やがて子供達は、彼に孫を抱かせてくれるでしょう。そして、妻や子供や孫に見守られて息を引き取る。それが彼の夢見る理想の人生よ」
 なぜだか俺は、おかしくて笑いたくなった。目の前にいるこの女は、岸森を利用することしか考えていない。それなのに俺は、何一つ、この女のようには、岸森が望むものを与えてやれないのだ。
 粘り強く努力すれば、岸森を幸せにできると考えていた俺は、なんて浅はかだったんだろう。身体中の力が抜けていくような錯覚に囚われて、俺は身動きひとつできなかった。



          act.14
 正月に帰省した俺は、一年ぶりに義姉と甥の一樹に会った。一樹に、再婚相手の姓を名乗らせたいという義姉に、お袋は気丈にも同意した。
「あの子は、どうしているかしらねぇ……」
 義姉達が帰った後、お袋がポツリと呟いた。
「あの子には、本当に可哀想な事をしたわ。いい子だったのに」
「え…?」
 てっきり岸森を嫌っていると思っていたお袋から、そんな言葉が飛び出して、俺は驚いた。
「昌美さんには一樹が残ったけど、あの子には何一つ残らなかった。あの子は、隆之と出会ったばっかりに、高校も退学になって、ご両親からも疎まれて、いいことなんか何にもなかったのに、隆之を本当に愛してくれたわ。私のことも、とても大切にしてくれた。母の日や誕生日には、隆之の名前で花束やプレゼントを贈ってくれたのよ。昌美さんは、私の誕生日がいつなのかさえ知らないわ」
 お袋は、長い間溜め込んでいたうっぷんを晴らすかのように、一気にまくし立てた。
「泣くなよ、みっともない。姓が変わったって、一樹が兄貴の子供であることには変わりないんだから。それに誕生日プレゼントぐらい、俺が買ってやるよ。いつなんだ?」
「ううっ、十月二日よ」
 いつの間にか一回り小さくなったお袋の背中を撫でながら、俺は考えていた。俺が、岸森を愛していると言ったら、お袋はどんな顔をするだろう。やっぱり、兄貴の時みたいに泣くんだろうか?


 東京に戻って間もなく、風邪をひいてしまった。頭痛が酷くて、鎮痛剤を飲んでも一向に治らない。岸森の結婚話を聞いてから、俺は度々、頭痛に悩まされていたが、今回の頭痛はいつにも増して酷かった。
 できることならベッドで休んでいたかったが、岸森から会いたいと言われて断れず、俺はバーで会うことにした。結婚を控えた岸森に、とてもじゃないが素面で会うことなんてできなかったからだ。
「ずいぶん飲んだみたいだね。大丈夫?」
 少し遅れてやって来た岸森は、すっかり出来上がっている俺を見て、形のよい眉を心配そうに顰めた。
「久し振りだな。元気だったか?」
「ヒロこそ、何回電話しても繋がらなくて、心配してたんだぞ」
 岸森は、少し長め前髪を掻き上げると憮然と返してきた。
「俺、年末年始は里帰りだって、おまえに言ってなかったか?」
「聞いてないよ。でも、たぶんそうだと思ってた」
「それで、彼女とはうまくやってるか?」
 傷つくだけだとわかっていても、聞かずにはいられなかった。
「そのことなんだけど……」
 岸森は一瞬、躊躇ったが、意を決したようにスラックスのポケットに手を入れた。
「気持ちの整理をつけるためにも、これを返したくて……」
 そっと差し出されたのは、兄貴の形見の腕時計だった。俺達は、しばらくそれを無言で見つめていた。
「俺は受け取れない。自分で捨ててくれ」
 俺は伝票を掴むと、逃げるように席を立った。
「ヒロっ!!」
 悲鳴のような声が俺を呼び止めた。
「何度も捨てようとしたんだ。でも、僕にはどうしてもできなくて……」
「それを手放せば、過去をなかったことにできるとでも思っているのか? 兄貴と暮らしたことも、俺と寝たことも、何もかもなかったことにしたいのか? 俺は嫌だ、そんなこと許さない!!」
 怒りで、自分が何を口走っているのかわからなかった。ただ悲しくて、やるせなくて、悔しくて、どうしていいかわからなかった。
 頭がガンガンする。まるでハンマーで殴りつけられているみたいだ。視界がぐらりと揺れた。周りの音が急速に遠退いていく。そうして俺は意識を失った。


 救急車で運び込まれた病院で、俺は手術を勧められた。脳の中に腫瘤ができていて、それが脳を圧迫しているためだ。今は、薬で出血を抑えているが、放置すれば数ヶ月で血管が破れて大出血を起こし、死に至る。手術すれば助かるが、後遺症が残る確率が高く、最悪の場合、全身麻痺の可能性もあった。
 だから俺は、手術しないことに決めた。後遺症でこの先、何十年も苦しむのはご免だし、もう人生に未練は無かった。何より岸森が俺以外の誰かと幸せになるのを見ないで済む。報われない片想いに、俺は心底、疲れ果てていた。もう、楽になりたかった。
 手術を受けないという俺に、お袋は半狂乱になったが、俺は頑なに手術を拒んだ。お袋の老後を、後遺症が残った息子の世話に費やさせるより、ポックリ死んでしまった方が、お袋のためだ。
 薬のお陰で、頭痛はほとんど治まった。しかし、だんだん左足の痺れが酷くなり、今日は自力で動かすことができなくなってしまった。たぶん、こんな風に少しずつ麻痺が全身に広がっていくんだろう。
「死ぬのも簡単じゃないな」
 そう呟いたとき、病室の扉が遠慮がちにノックされた。
「具合どう?」
 岸森は、無理に笑顔を作ろうとして失敗した。ぎこちない微笑みはすぐに脆く崩れ去り、何かをじっと耐えるような表情になる。
「家族や親族以外は、面会謝絶だぞ」
 俺はわざと不機嫌な声で言ってやった。
「ヒロのお母さんが、従兄弟だってことにしてくれた。手術を受けるように説得してくれって」
「そっか、お袋の奴、おまえにまで泣きついたのか……」
 俺は溜息を吐くと、岸森を手招いた。岸森が、俺の上に屈み込むようにして顔を近づける。
「岸森、聞けよ。俺が死ぬといいことがある。俺の死亡保険金一億円の受取人は、おまえだ。マイホーム資金にでも仕事の独立資金にでも好きに使え」
「ヒロ?」
「兄貴はおまえに何も残さなかったけど俺は違う。俺の愛車もCDも本も何もかも全部、おまえに遺す」
「ヒロ……そんなことで僕が喜ぶとでも? 手術をすれば助かるんだ。なんで手術を受けないんだよ!」
 岸森は苛立ったように声を荒げた。涙で潤んだ瞳、わななく唇、怒りで上気した頬。目が眩むほどエロい。俺は不謹慎にも、セックスで快感に耐えている時みたいだと思ってしまった。
「医者がヤブだからさ。後遺症が残るんだ。最悪、全身麻痺だとさ」
「それでも僕は、ヒロに生きてて欲しい!」
「我が儘言うなよ」
 俺は苦笑して、岸森の頬を伝う涙を、指先で拭ってやった。
「一人でなんか逝かせないから……ヒロが死ぬなら、僕も死ぬから……ひとりぼっちは嫌だ」
 俺の死を怖れて、岸森は情緒不安定で混乱しているようだ。俺は、岸森を宥めるように優しく囁いた。
「落ち着けよ。おまえは結婚するんだろう? 自分の家庭を持てるんだ。きっと幸せになれる」
「ヒロを愛してる。だから、結婚は断った」
 唖然とする俺に、柔らかな唇がそっと俺の唇を掠めた。
「ヒロの側にいさせて……僕を一人にしないで……」
  


          act.15
 手術を受けて生き延びた俺は、麻痺のある左脚を引きずって、毎日、歩行練習に励んでいる。もう走ることはできないが、頑張れば杖なしで歩けるようになるそうだ。
「駅までは、さっきの物件の方が近いんだけど、広さとしては、こっちの方が広いんだ。ヒロは、どう思う?」
「どうせ車で移動することがほとんどだから、別に駅に近くなくてもいいと思うけどな」
 お袋は実家に戻ってくるようにと煩かったが、俺は岸森と暮らすことに決めた。岸森は、俺が退院するまでに新しいマンションを見つけようと、仕事の合間を縫って駆けずり回ってくれている。今日は初めて外出許可が出て、岸森とマンション巡りだ。
「それじゃ、次の物件を見に行こう。次のはヒロの職場のすぐ近くなんだよ」
「まだ、あるのか?」
 俺は、うんざりしてボヤいてしまった。すでに3つも見て回ったのに、まだあるなんて……。せっかく外出できたのに、下見で一日を終わらせるなど真っ平御免だ。
「ゴメン、疲れた? 続きはまたにして、病院へ戻ろうか?」
「そうじゃなくってさ、ホテルいこうぜ」
 岸森の手を引き寄せて、その指先にキスをする。岸森は耳まで真っ赤になって俺を睨み付けた。
「おととい、手でしてやったじゃん」
「おまえの内部なか に入りたいんだ」
 オロオロと視線を彷徨わせ、岸森は途方に暮れたように唇を半開きにした。すげぇ、色っぽい。
「さっき、クイーンズ・ガーデン・ホテルに電話したら、マネージャーの小関さんが、特別に早くチェックインさせてくれるってさ」
「ヒロってば、恥知らずだな」
 呆れたように唇を尖らせながらも、岸森は期待に満ちた瞳で俺を見た。


 スイートルームの浴槽は、のんびり手足を伸ばせるだけでなく、お湯の浮力を借りて身体を楽に動かすことができた。いくら岸森が細くても、まだ俺にはその体重を支えることはできないから大助かりだ。対面座位で、俺を奥深くまで飲み込んだ岸森の官能的な顔を、たっぷりと鑑賞する。
「ふあっ…んんっ……、ダメ……いやぁ……」
 埋め込んだモノで、弱い部分を擦るように刺激すると、岸森はキュッキュッとリズミカルに俺を締め付けた。
「キツぅ……もっと緩めろよ」
「やぁ…また大きく……っ」
「直記の内部が…食らいついてくるからだよっ……」
 指で作った輪で岸森のペニスを扱きながら、胸の突起を舌で転がした。ついさっきまで、俺の指先でさんざん弄り回されたそれは、プツリと勃ち上がり紅く色づいている。コリコリとした感触が堪らない。
「あっ、ふぁっ……いい……」
「……ああ、いい感じになってきた。波打つみたいに、うねってる」
「ばかっ……言う…なっ……」
 羞恥に頬を染めて、岸森が上擦った声で抗議した。
「愛してるよ」
 優しく囁くと、岸森は嬉しそうに唇を重ねてきた。舌を絡め合いながら、岸森の双丘を左右に割り開いて、ゆっくりと持ち上げる。埋め込まれていたモノがズルリと引き出される感触に、岸森の内壁が引き止めようと吸い付いてくる。俺は、先端が抜けそうなギリギリのところまで腰を持ち上げると手を放した。
「い、やぁあ―――…深い……」
 深々と飲み込まされて、岸森が衝撃に背を撓らせた。先端で最奥をこね回すと、もっと欲しいと強請るように岸森の腰が揺れる。
 俺は小さな尻を抱え直すと、ストロークを大きくした。熱い愉悦の塊が、ゆっくりと全身に広がっていく。
「ひっ、ああっ! ヒロ……ヒロッ、ああぁっ――!!」
 岸森は放埒に声を上げると、艶めかしい絶叫と共に達した。それに合わせて内壁が強く引き絞られ、俺も引きずられるように最奥へと熱を注ぎ込んだ。


「こんなの反則だ」
 俺の身体をバスタオルで拭きながら、岸森が文句を言った。岸森に身体を洗ってもらうはずが、コトに及び、さらに中出しまでしてしまったのだから、怒るのも無理はない。
「掻き出すの手伝うからさ、そんなに怒るなよ」
「結構だ! 悪戯されるのがオチだからっ」
 バスルームから俺を追い出すと、岸森は鍵を掛けてしまった。俺は仕方なく、クイーンサイズのベッドに手足を投げ出して、岸森が出てくるのを待つことにする。
 上質のリネンが肌に心地いい。この部屋は、母親の胸に抱かれているような癒しを与えてくれる。そのせいか、宿泊客の三十二パーセントがリピーターだと聞いた。マスコミにも、ことあるごとに取り上げられて、岸森はあちこちから引っ張りだこだ。今に、俺より高給取りになるだろう。
 いつの間にか眠ってしまったらしい。目覚めると、岸森の寝顔が隣にあった。幼さが消え、なんだか哀しげな寝顔だ。幸せとはあまりにも縁遠い人生を歩んできたせいだろう。
 俺は子供で……本当に子供で、岸森を傷付ける事しかできなかった。それなのに、岸森が俺を選んでくれたなんて奇跡のようだ。
 だから俺は、岸森を絶対に幸せにする。岸森が、俺を選んで良かったと思えるように精一杯、努力する。俺はこの誓いを、世界中の人に伝えたい気分だ。
「ヒロ……愛してるよ」
 目を覚ました岸森が、澄んだ瞳で俺を見つめていた。
「僕は、ヒロがあんまり一途で怖かったんだ。でも、もう逃げないから。ずっとずっと側にいて……」
 俺は微笑むと、返事の代わりに噛みつくようなキスをした。
      
                 Happy End         
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